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第4回「戦争に行ってる間にウデが鈍った。」

吉田:例えば都内のカバン屋さんなんか昔から顔見知りのところがあって、
そこへ持っていくと私にお菓子をくれて
「ともかく吉田さん、一つでも多く作ってくれよ。」
と要求されるんです。
すると親父はいつも「ええ。」と返事をしてるんですけど、
家へ帰るとミシンの周りいっぱいに品物が積んであるんですよ。
あれだけの要望を私も側で聞いてましたし、
この品をどうして持っていかないのかと思いました。

石原:ハア

吉田:そのうち親父とお袋のけんかがはじまるんです。

石原:なるほど・・・。

吉田:あれがね、親父のモノ作りに対するこだわりというか、
要するに自分の納得した商品しか持って出なかったんですね。
それで「戦争に行ってる間にウデが鈍った。」とか言って
満足しないものは全部そこに積み上げてある。
それどころか近所にあげちゃうんですよ。

石原:そのカバンはお母さまも社長もご覧になって
どこが悪いかわかったんですか?

吉田:いや、私はまだ小学5年生ですからね。
お袋は「この商品なら充分売れるじゃない。」とか
「早く東京に進出しなきゃならないのに。」とか。
私の想像ですよ、「なんでそんなにこだわるの?」っていうような事を
お袋は親父に言っていたと思うんですよ。

石原:それは男性と女性の違い・・・決定的な。

吉田:これは親父にハッキリ聞きました。
ある程度私が大きくなってからですが「あの時はどうだったんだ?」って。
そしたら「いや、あの時は自分で全然満足できてなかったんだ。」って
言ってました。そういう面でモノ作りに対するこだわりは
ものすごかったですね。
これは、僕は本当に強烈に覚えているんですけど。

石原:それはこの写真(※右写真参照)につながりますね。
やはりダンディズムですね。
それにしてもお父上は研究熱心な方でしたでしょうから、誰よりも一番にヨーロッパに行きたかったのはお父様ご自身だったんでしょうね。

吉田:だと思います。

石原:それをやっぱり自分は行かないで長男である社長に
「お前行ってこい。」と託したんでしょうか。

吉田:一応そういうようなカッコイイ話として・・・
私がヨーロッパに修行に行くのですが。
実のところ・・・これはオフレコですけどね。
本当のところは当時私はどうしようもない不良少年だったからなんですよ。

石原:ハア、ハア・・・?

吉田:当時の私の業界の2代目というのは大体が大阪に丁稚奉行にやられて
そこできつい修行を強いられる。
私はもうそこに行くよう修業先まで決まっていたんです。
ところが私はどうしようもない不良でね。

石原:どの位の不良だったんですか。

吉田:とにかく悔いのないくらい遊びましたね。

石原:(笑)それはお幾つくらいの頃ですか。

吉田:17・18才からバンドをやってたんですよ。
音楽が好きで。それで生活が派手になる。

石原:けっこう売れっ子・・・・。

吉田:まあ、アマチュアバンドでしたが金には困らない。
酒は飲むわ遊び回るわで、そんな私をお袋が心配しましてね。
これをそのまま大阪に行かせたら我が家の恥になる。
勤まらないだろうと。そういう危機感を私の両親が持ったと思うんですよ。

石原:ご自分も無理だろうと思われてましたか?

吉田:いや、私はもう年貢を納めて大阪へ行くつもりで
覚悟はできていたんですが、親が心配して我が家の恥になると。
そういう背景がありまして、
また親父は親父で自分でヨーロッパに行きたいという夢を
ずっと持っていたと思います。
たまたまそういう時に、アメリカが絡んで日本の皮革産業を
少しでも向上させなきゃいけないと。
後でお話ししますけど、僕はアメリカとヨーロッパに対して
未だコンプレックスを持っているんですけどね。
当時アメリカが日本に原皮を輸出していたわけですが、
その頃の日本はそんなに原皮の大きな需要はなかったわけですよ。
ところがアメリカは需要を喚起しなければ日本に原皮が売れないわけですよ。
そこで原皮を輸入している商社と組んで皮革産業界を
背負って立つような若い人間をヨーロッパで勉強させようと。
当時、昭和30年代前半ですからとても外国なんかに行けない時期に。


>>次回は、吉田会長ヨーロッパへ。1960年代、海外へ行くという事の大変さや、
  おもしろさのつまったお話です。お楽しみに。(次回2月14日予定)

これまでの特集対談

吉田カバン会長
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ユナイテッドアローズ社長
重松 理 ver

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吉田カバン創業者、吉田吉蔵
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2006 spring
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