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第7回「日本にこんな技術があるのか・・・」と。

吉田:ところで何故この親父の作ったバック(※タイトル写真参照)を
持って行ったかというと、これがそのお金に関係があるんですよ。

石原:ほぉ

吉田:お袋がね、私が向こうでお金に困った時に
日本製で何か換金できるものがないかといろいろと相談したらしいんです。
それでやっぱり当時は向こうでも金目になるものといえばカメラで。
アサヒとかペンタックスとか何かでしたが、
当時日本で一番高いカメラを持たせてくれて、もし困った時はこれを売れと。
ところがそのカメラを入れるケースがない。
で、親父がこれを作ったんですよ。
当時、裏地にこういうチェックを使うというのは考えられない頃です。

石原:そうですよね。

吉田:やっとお金をためてこのバッグを持ってグッチの店に出かけました。
よく憶えていますがあのフィレンツェの駅で野宿しましたよ。
駅の木の椅子に寝てね。
持って行ったバックをヒモで足に縛って寝たんです。
1000リラだったかな・・・弁当を買って食べて、
翌朝にヨレヨレの格好でグッチへ行ったんです。
とてもあの店に入れるような雰囲気じゃない。

石原:そうでしょうね。

吉田:入れてくれない所を勝手に入ったのだけれど、
案の定追い出されました。
ところが背広を着たジェントルマンが
盛んに私の担いでいるこのバックを見ているのですよ。
イタリア語でペラペラ言うんでわかんない。
そこにマヌカンみたいな綺麗な店員さんが英語で、
「貴方が持っている鞄にこの方は非常に興味を持っているんですが
どこで買ったんですか?」というようなことを聞いてくるんです。
それで「日本から持ってきたんだ。」と言うと
「日本にこんな技術があるのか・・・」と。

石原:ちょっと詳しくそこを教えていただけますか?

吉田:つまり普通でしたらここで切るんですが、通してここにきてるんです。
(※表紙写真のバッグの底部分のステッチを説明)
要するに素人が見てもすぐには解らないんですが、プロが見ると
「この技術はどういう技術なんだ」ということです。
これに彼らはびっくりしたんです。
私はその時は彼らが一体どこに興味を持ったかわからなかったんですが。

石原:ハア

吉田:当時、グッチの代表的な素材はピックスキンです。
イノブタといって猪と豚の合の子ですが、それに三色のテープをつけて。

石原:このお父上の作られたバックの素材は?

吉田:豚です。
私が親父は凄いなと思うのはそこなんですが、日本が誇れる革は豚しかない。
国産の豚にこれは特殊なエンボシングをしています。
これを持っていたら恥ずかしくない。それで作ってくれたんですが、
これに彼らは興味を持ちました。

石原:なるほど、なるほど。

吉田:そしたら奥からブルーの作業服を着た技術者が何人か出てきて、
このカバンを置いてってくれないかと。
グッチの品物と交換しようというわけです。
だけど私も純情だったんでしょうね。断りました。
せっかく親父の作ってくれたものをね。

石原:(笑)不良息子にしてはなかなかのものですよ。

吉田:その時はもう改心してましたからね。(笑)

石原:なるほど・・・。


>>次回は、「グッチ」との出会いがもたらした、意外な影響とは。
  お楽しみに。(次回3月6日予定)

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