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第10回「やはりアメリカに対してもね、どうしても上目使いで見てしまう・・・」

石原:ところで、バレーゼの1軒のカバン屋さんで
ご覧になったバッグに震える程だった、と先程おっしゃいましたが、
その他に衝撃的なことを教えていただけますか。

吉田:いっぱいあります。
その中でも一番衝撃的なのはそのバレーゼのバッグで、
それ以来私はヨーロッパにコンプレックスを抱く事になるのは
そういう事が強烈に頭に残っているからだと思います。
アメリカに対してもありますし、
それは寒川の近くに厚木基地(在日米軍)がありますが、
そこに着物を着た女性や子供が「ギブミーチョコレート」をやるわけですよ。
そんなこともあって、やはりアメリカに対してもね。
どうしても上目使いで見てしまう・・・(笑)

石原:今の日本の若い人はどうなんでしょうね。

吉田:全然ないでしょうね。むしろ逆じゃないですか?

石原:これはやっぱり最初のプリンティングの問題じゃないですかねぇ。

吉田:それにしてもあの米兵に貰ったチョコの味、
あの一瞬の甘さ、うまさ。
「こんなものがあるのか」とそういう子供時代を過ごしましたから。
それがずっとコンプレックスの根源に。
恐いものですね。

石原:バッグを実際作る時に一番難しいところ、技術上のこと、
そして吉田カバンとして誇れる事とはどんなことでしょうか。

吉田:それはやはり基本です。
その基本には縫製やら何やら色々あるのですが、
一番の基本は裁断だと思います。

石原:裁断ですか?

吉田:裁断というのは一番ベテランがやるんですよ。
特に革の場合、方向性というものがあるんですよ。
総合的にできる人じゃないと。
裁断が少しでもくるうと、もうどうにもなりません。

石原:「くるう」とはどういう事ですか?

吉田:例えば同じ部分じゃない、堅い部分と柔らかい部分が
一緒に裁断された場合ですね、必ずそこにズレが生じてくるわけです。
するとカバン全体の形がくるってしまう。

石原:なるほど。

吉田:技術的な問題というのはそのような
目に見えない部分に集約されてくるわけです。
もちろん革とそれ以外の素材の縫製技術というのは全然違います。
しかし私共では幸い革の技術があり、
それを基本として大事にして、ナイロンやその他の素材にも応用しています。
この差は大きいと思います。
その基本を持った職人さんがいて、
その上にデザインする人間がおりますので「こだわり」になるのです。
バラ(解体)していただくと中国製のものなんかと
全然違うという事が分かっていただけます。

石原:もう少し分かりやすく言っていただくと?

吉田:例えばバッグの場合(上写真参照/バッグを手に持って)この部分に
タマベリというのが入っています。
この紐状のもの1つとったにしても、太さやその中の芯などに
大変な知恵が詰まっています。
これが少し太いだけでボコボコになるし、
細いとペッタンコになっちゃうんです。
このように目に見えない部分の技術が大事なところです。
その意味で言えば本物のイタリア製というのは、やはりバチっとしてますよ。

石原:イタリアの技術の集積というのはまだまだ深いものですか?

吉田:悔しいけれどやはり凄い。ただ私が本当に悔しいのは素材なんですよ。
特に鞣した革です。

石原:それは日本では手に入らないものですか?

吉田:いえ、入るんですが、日本というのはご承知のとおり革に関しては
フリーマーケットではない。
保護政策を今だにやっている。ですから上海や香港で買うよりも
ものすごく高い革を買わざるをえない。
それに日本の鞣しの技術は本当に高いのに
原皮の90%以上を外国に依存しています。
まあ関税の今度の国際会議には私も出る予定ですが、
近いうちにきっとそれも変わると思っております。

石原:お父上が創業され、会長がここまで成長させてこられた会社を
振り返っていただきますと・・・?

吉田:振り返ると43年間、最初は父と一緒にはじめて、
結果論ですが私自身が驚いていることがあります。
それは「メーカー」と「卸し」と「小売り」の
流通全部をやっちゃったということです。

石原:なるほど。


>>次回は、いよいよ吉田会長編の最終回。会長の代から力を入れ始めた
  流通への取り組みのお話です。お楽しみに。(次回3月27日予定)

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