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第2回「良い建物とは、そのものだけの存在だけではあり得ない。」

石原:さて、ここで次の質問をさせていただきます。
たくさんの建築物を設計されていますが、その中でご自身、
これこそ自信作だと思われるものを3つあげていただけますでしょうか。

丁:私は1992年にこの設計院に入りました。
そして1994年に設計院の院長になったので
私の個人的作品といよりはあくまでも作品は設計院みんなの作品です。
そんな中で、この設計院にとって一番意味の重い作品といえば、
北京の「釣魚台国賓館」だろうと思います。
先ほど差し上げた私どもの作品集のトップに取り上げているのは
この建物です。(と作品集のページをめくる)

石原:ああ、これですか。これは美しい。きれいですね。

丁:この作品集に掲載されているのはパースですが、
現在はもう実在しますので、もし機会がありましたら
実際の写真集も差し上げます。
この建物は28000m2もある大きなものです。

石原:28000m2ですか・・・・8500坪も。

丁:この釣魚台国賓館は中国外務省の直接の建物で、
中国の重要な外交儀礼はすべてここで行われます。

石原:すばらしいですね。
無理でしょうが、是非内部も実際に見てみたいものですね。
ところで話題を世界に転じた時、全時代を通じて、
院長個人として高い評価をなさっている建築物を
5つほど挙げていただけないでしょうか?

丁:私個人の好きな建造物といえば、たくさんあり過ぎて
とても5つには絞りきれません・・・
各時代や、社会の発展に伴って建築の水準は向上してきています。
歴史上、社会の様々な分野でそれぞれが必要としたり、
建てようとした沢山の建築物がありますよね。
ですから建築物はそれぞれの時代や地域の経済水準や
文化形態の縮図でもあります。

石原:なるほどおっしゃる通りでしょうが、
例えば絵の世界でダビンチやピカソが新しい時代を切り開いたような、
そういうエポックになる作品などといえば、
と質問を変えさせていただきますと?

丁:それではあくまでも今瞬間的に思い付くものを一例としてあげます。
例えばオーストラリアのあのオペラハウス。
あれは外見から、また内部に至るまで完璧です。
しかもシドニーという都市のシンボルであり目印にもなっています。
もうひとつあげると、去年9・11事件がありましたが
例のニューヨークの世界貿易センター(WTC)のツインタワーです。
建物そのものの素晴らしさもさることながら、
さらに周辺の環境と一体化し、ニューヨークのなかのマンハッタンという
世界の金融センターを象徴する存在として際立っていました。
良い建物とは、そのものだけの存在だけではあり得ないわけで、
様々な要素や条件の上にあるものです。

石原:なるほど・・・。

丁:ニューヨークの超高層ビルとしてはもちろん
エンパイア・ステートビルとかロックフェラーセンタービルとか、
もちろん歴史的に見てもあらゆる意味においても
素晴らしいものだと思いますが、
9・11事件があってからWTCはこれから
人々の記憶の底に長く残っていくものでしょう。

石原:その通りだと思います。
それについて、しかしあれだけ瞬時に破壊されてしまった今、
建築家として現代建築の危うさのようなものを感じることはありませんか?

丁:そんなことはありません。
例えば戦争で橋を一部破壊されたとしてもそれは修復可能なように、
現代建築もまた本来修復可能に作られています。
もう一つ高層の良いビルをあげましょう。
それは東京都庁です。
それには2つの特徴があります。
第1に黒川紀章さんという名設計士が見事に手掛けたということ。
第2に一都市が役所用に使うために作った
世界で初めての超高層ビルであるということです。
近々私達も杭州市の市役所を超高層ビルにするつもりですが、
まだ正式には決まっておりません。


>>次回は、丁院長の考えるよい建築作品の条件とは。
  お楽しみに。(次回4月17日予定)


建築設計研究院と丁院長 同済大学建築設計研究所は建築、土木、都市設計等の各セクションに80〜100人の研究員を有し、数百人規模の巨大な組織です。国家の巨大プロジェクトの設計に中心的役割を果たしています。その研究院の院長、丁潔民氏は1994年、若干37才で院長になり、工学博士、教授、博士生導師の肩書きを持っておられます。なお、現在の中国の学問、実業、行政などの各部門の責任者は、その多くが30才台後半から40才台の知識とエネルギーが溢れる世代が中心となっているそうです。

同済大学 1907年ドイツ人によって創設された「同済徳文医学院」という医学院がその前身。「同済」とは心を合わせて助け合うという意味ですが、日本ではなぜかあまり知られていません。しかし中国では清華大学と並び称される国立の名門総合大学です。キャンパスの中心は上海市の北部郊外の四平路沿いにありますが、総面積は実に141.8ヘクタールもあります。広大な敷地内には緑が多く、その中には一般道路が走り、住居や商店もあり、巨大な学園都市のような感じです。理学、医学、工学、文学、法学、、経済学の全分野に渡り、理学院、建築と都市計画院、電子とメディア工程学院など十数学院をはじめ、3つの付属病院、50学科、大学院80研究科を擁しています。それぞれの分野は国家建設の重要な役割を持ち、研究センターとなっています。 建築学部と医学部が特に有名ですが、殊に建築学部は中国では清華大学の建築学部と双璧をなす存在です。学院総数37,000人、教授630人、助教授1,300人のほか、外国人を含む多数のスタッフが集まり活気に満ちています。

インタビュー経緯 現在の中国において、建築設計の中心的存在のお一人、丁博士に単独インタビューが可能になったのは(株)クローバーシステム、社長で旭川日中友好協会のメンバーである栗田和成氏、札幌在住の高翔氏のネットワークによるものです。また、現地上海では通訳兼案内を勤めていただいた同大の厳万翔院長助理に万全の協力体制をとっていただきました。皆様に心より感謝とお礼を申し上げます。

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