第4回「魂ですね。そういう言葉でいえるものです。」
木内:たった1点「ビエンナーレ金賞」を選ぶというのです。
2位や3位はなくて。
石原:ただ一つだけ?
木内:ただ一つだけです。
ビエンナーレ展金賞…7つの部門から一人だけ、
一つだけ金賞が与えられるのです。
それを私の「ハマナス」が受賞できたのです。
私を招待してくれたのは、ビエンナーレの主催者の一人、
画家で、日本でいう人間国宝みたいな方なのです。
通訳はその方の奥さんのエリザベス夫人。
日本語がすごく達者な方で、
その人が興奮して
「大変だ、木内綾さんに金賞がついた」というのです。
始めは何を言っているのか分からなかったのです。
よくよく聞きますと、
7部門中でたった一つしかない金賞が
「ハマナス」についたというのです。
それは興奮しますよ。
ご自分が招待した作家なのですから。
その方は一時、東海大学の客員教授で、
日本にいるとき、私共の工芸館に見えて知り合ったのですが、
その方の推薦でハンガリーから招待がきたという
いきさつがあるのです。
石原:僕らは作品を見せていただくとき、
日本人として非常に近いところで見るから、
そのオリジナル性をあまり感じないかもしれないけれど、
外国人から見ると、
これはなんだ?という驚きがあるのでしょうね。
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木内:そうなのでしょうね。
ブダペストの高名な美術評論家で、
ミクロ・ロションテ博士という方が
私の作品「流氷」を見て、
「木内綾は、日本のバルトークである。
そして、ハンガリーに
海を運んで来てくれた。海の無い国に。」
と書いて下さいました。
だけどバルトークといえば
音楽の神様みたいな人ではないですか。
私はもう恥ずかしくて、
とんでもない、というので
その本は人目につかないところに
しまっています。
石原:外国から日本を見たとき、
日本の中ばかりでは見えないものが、
くっきり見えてくるということが
あるのかもしれませんね。
木内:そうですね。
外国の方は肩書というものを
あまり重んじない。
日本はなんでも肩書き。
芸術院会員といったら絵が上手でも下手でも
高い値段がつく。
一方ですごい絵でも
肩書きのない無名の作家だと
さっぱり売れない。
石原:織元は外国で
もてたといわれますが・・・
木内:全然。
そんなことはないのですよ。
要は「作品」なのですよ、
唯一通じ合えるのは。
この作家の作品はやはり本物だとか、
いい作品だとか、自分の直感でそう思った、
ただそれだけでいいのです。
私のことはすぐには何者かということが
分からないはずです。
「こういう作品を作れる人間」
ただそれだけだと思います。
石原:なるほど。
ヨーロッパを含めていろいろな人間が
入り混じった中に住んでいると、
信じられるのは、この人間は
何をつくったのか、
だからこの人間は信じられる、
ということなのでしょうね。
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〔流氷〕
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木内:そうなのです。
作品を見る目のある人は、
ただ形だけを織ったのか、
造形だけで織ったのか、
それともそこに魂というものをどれだけ込めて織った作品なのか、
自分の心に訴えてくるものを
自分なりの感性で理解するものです。
私の作品をそういう風なとらえ方をしてたの、
と思う事であっても、共感できることがあれば、
ぜひお友達になりたいと思います。
石原:今、「魂」という言葉を使われたのですが、
やはり魂ですか?
向こうでも魂ですか?
木内:魂ですね。
そういう言葉でいえるものです。
すべて。魂=感性です。
自分の作品の感性と相手の感性が響きあわなければ、
見向きもされないと思います。
どこの国へ行ってもそれは同じです。
例え拙くても、
自分が命を懸けるようにして、一心不乱に、
一生懸命織ってきたことは事実です。
そうしたものが何処か、
やはり、見る方に伝わるものがあったのかな、
と思います。
>>さて次回は、実は審査の対象になっていた「ハマナス」の
ハンガリーでの評価は…。お楽しみに。
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2006 spring
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木内綾と優佳良織略歴
昭和37年「優佳良織工房」発足
昭和43年-開道百年記念式典にご来道の昭和天皇・皇后両陛下に献上
昭和45年優佳良織民芸館 開館
昭和48年「日本の美術展」招待出品(パリ市)
昭和51年ハンガリー国際織物ビエンナーレ招待出品/「日本工芸展」招待出品(スペイン・バルセロナ市)
昭和52年日本民芸公募展、最優秀賞/「日本伝統・現代工芸展」招待出品(ギリシャ・アテネ市)
昭和53年国際織物ビエンナーレ、金賞
昭和55年優佳良織工芸館 開館
昭和57年「優佳良織・木内綾展」(東京・大阪・九州)読売新聞社主催
昭和58年ニュージーランド・国立オークランド博物館主催「木内綾展」/奈良薬師寺に「旙」四流奉納
昭和61年国際染織美術館 開館
昭和62年日本現代工芸美術展招待出品、内閣総理大臣賞/北海道文化賞
平成元年通産省ふるさと再発見、通産大臣賞
平成3年雪の美術館 開館
平成7年文化庁長官賞
平成10年北海道功労賞
平成12年「優佳良織/木内綾作品展」朝日新聞社主催(東京・神戸・名古屋)
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