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第3回「最も売れたモデルだと40年間程で5000万脚くらいです。」

石原:・・では、トーネットが使った材料は?

織田:トーネットはブナの木です。
ブナは湿気に対して弱いということで
それまでは一切利用されてなかったんです。
ですからヨーロッパ中にたくさん自生していて。
そこに着目して、トーネットは蒸気で蒸して曲げ木し、
人口乾燥をかけるんです。
そうすると繊維が一本でつながったままなので弾力性があって、
軽くて丈夫で、しかも部材が豊富で安い。

石原:実に上手い着想ですね。ところで1850年代にトーネットが
それを作った時に、実際にはどれくらい売れたんですか?

織田:そうですね・・・
最も売れたモデルだと40年間程で5000万脚くらいです。

石原:5000万?毎年100万脚以上?   

織田:ええ、1859年に「No14」が生まれて、
それが1900年代の初期で5000万脚でしたから・・・。
そして驚くべきことに150年後のいまでもそれは作られてるんです。
もうこれまで2億脚以上です。たった一つのモデルで。
一般大衆用ということは価格が安く、
材料がたくさん供給可能で、デザインはシンプルである事。
複雑なものだと好き嫌いが発生しますからね。
そして材料や仕上がりが均質でなければいけない。それをトーネットは[No14」という椅子で全部クリアしたんです。

石原:なるほど、ほんとに聞けば聞くほどすごい・・。
トーネットという人はもとから椅子を手掛けていたんですか?

織田:家具職人でした。
ドイツのメッテルニヒなんかにに重用されていたんです。
最初は宮廷の家具職人をしていて、
それから自分でやり出したんです。

石原:1850年代というと資本主義がある程度できてきて、
マーケットというものがすこしずつ確立されてきてましたしね。

織田:そうですね。その頃からロッキングチェアも出てきました。
あれこそ、ほんとにゆとりがなければ生まれない椅子です。

石原:時間をつぶす椅子ですからね・・・。
『椅子の世界史』という見方からみて、
先生の収集された1100脚は1850年以降から今までの
全時代、全地球をほぼカバーしているということですね。

織田:ええ。ところどころ欠けてはいますが、
大まかな意味においてはカバーしています。
ただ、欧米の美術館なんかがオークションで競り落とすような
オリジナルモデルの初号とかですね、
そういうものはとても高額で
なかなか手に入れられないですが。

石原:ただし同じものとしてはある、
ということですね。

織田:ええ。オリジナルも結構ありますが・・・。

石原:でも、なぜか僕らは
一般に先生のコレクションは北欧系と思いがちですが。

織田:まあそれは、私自身の研究対象が
つい北欧に重みを置いてきたからだとおもいます。
実は研究を始めてから5年間で
この本(※「デンマークの椅子」グリーンアロー出版)を
まとめる予定だったんですが、
17年かかってしまって。
しかも17年かかってもやりきれてない部分があるもんですから、
いつのまにやら北欧が
僕の研究の中心になってしまったというところで・・・。
だけど平行して他の地域のも少しずつ研究を進めてます。


石原:なるほど。

織田:そればかりか、
椅子だけではなくて、ゆくゆくは「20世紀の美しい日用品ミュージアム」
というものを作りたくて、
柳宗理先生や清家清先生に理事になっていただこうと
今やってるんです。
東京に作ることになりましょうが、
できればこの旭川空港周辺にもできないかな・・・と思いながら。
ですから僕が椅子以外に集めているものには、
食器やガラス器なんかが数えきれなくて。
スプーンやフォーク等カトラリーだけでも
1000ピース以上ありますし、
電気製品、ステーショナリー、テキスタイルなどといった
美しい20世紀の日用品もたくさんあるんですよ。
それををなんとか後世に残し、
きちっと伝えていくような施設、
デザインミュージアムを作りたいんです。

石原:せっかくこれだけのモノがあるのですからね〜

>>次回は、「美しい日用品」のお話です。
  お楽しみに。



【1928】
シェイズロング・LC-4
ル・コルビジュ、シャルロッテ、ペリアン、ピエール、ジャンタレの合作。アールデコスタイルの代表作。カッシーナ社製

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