第3回「今の『時代の気分』は2001年のセプテンバー・イレブン
   だと思います。」


栗野:ちょうど2004年春夏に向けて、
今の「時代の気分」の大きな要因になっているのは、
「2001年のセプテンバー・イレブン(9月11日)」だと思います。
マンハッタン島やワシントンにおける、同時多発テロです。
その時多数の人が亡くなり、
米国が報復行動を起こし、
アフガニスタン、イラクに攻撃をしました。
ですから今、世界中に「死」というものが
あふれていますよね。

石原:はぁ。

栗野:そのように「死」というものがあふれている時には、
人は逆に「生」というものを感じようとします。
ギリシャ語の「タナトス」と「エロス」、
「死」と「生」です。
タナトスがあふれている時、人々はエロスに目がいく。
エロス的なもの、人々は自分が生きているということを実感し、
生きていることを喜べるようなことに
敏感にリアクトするだろうなぁ、と
あれからずっと思ってきたわけですよ。


石原:なるほどねぇ。

栗野:絵画にしても音楽にしても、
一見世の中は即物的な方向に行っているように見えますが、
実はかなり情緒的な、
感情的なものを求めていますよね。

石原:はぁ…。

栗野:例えば、この半年ぐらいの間で
日本で流行った音楽をみても、テクノ的なものは衰退して
沖縄メロディでしょ。食べ物でもシンプルな無農薬の野菜であるとか。
高級レストランではなくカフェが流行ったり。
カフェって人が集う場所ですよね。
人が人としての喜びを見い出そうとしたり、
人と人とのつながりをすごく意識したりする…。
そういう時代じゃないかと思うんです。

石原:なるほど。

栗野:そうすると、
洋服がそこで果たす役割というのはすごく大きいと思うし、
もっとそのことを理解して一歩踏み込めば、
洋服屋として良いメッセージ発信ができるんじゃないかと思うんですよ。
来春夏に向けて僕が出した
「Everybody loves somebody」というコンセプトのうち、
キーワードは「love」です。
「もっと人を愛そうよ」という…。
その「愛」というのは、
「全人類的な愛」がまずベースにあるのだけれど…。
もうちょっと軽い次元では、
人を愛し愛される…、恋する時のときめき、
ドキドキ感を服に合わせていったらいいんじゃないか…という。

石原:はぁ…。

栗野:例えばそれはどういうこと?と言われたら、
色とか柄とか…。だから色が増えたり、
プリントが増えたり…服が軽くなったりということです。
ただ、その軽いというのは軽薄という意味ではなくて、
もっと服との係わりにおいても、
自分の「生」を確認するような。
生きてて良かったなぁ、というエロスというものを自覚できるような。
そんなバックグラウンドが、
今満ちていると思うんです。

石原:なるほど…。

栗野:世界情勢や人々の哲学的傾向やアートの傾向から、
僕なりにまぁいろんなネタを入れていって、
じゃファッションであれば
どうやって出していくのかということを考えていくと、
そういうフレーズになって出てきたり、
選ぶ色になって出てきたりということなんです。

石原:この事件ほどのエポックメーキングな出来事といえば、
9・11以前には何だったと思われますか?

栗野:たぶん、第二次世界大戦ですね…。
その時の原爆投下だとか…
でしょうね、たぶん。

石原:それと、89年のベルリンの壁の崩壊もすごいことでした。



>>次回は、世紀の事件とファッション業界が不可分であるかに
  話は進みます。お楽しみに。





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