第7回「その時は自分がやろうという気持ちにまでは
なれませんでした。」
木内:その当時、東京で九重さんという方が、
テーブルの上でできる小さな機織をつくって、
それが九重織といって有名になったのです。
私もそれを買って、仕事ではなくて、
遊びでやっていました。
東京から帰ってから、本格的な織り機を手に入れて、
外国の本などで絵を参考に、
コツコツと易しいものからやっていたのです。
仕事としてやって行く気は全くなかったのですが。
それがいつの間にか口づてに広がって、
「旭川のためにぜひ本気でやってくれないか」
という話になって。
石原:昭和37年にはもう機織の技術の方は相当なところまで。
木内:北海道立工業試験場で
機織りの組織という基本は教えていただきましたが、
そのあとはほとんど自分で研究しました。
創作的なことはすべて自分の考えの世界で、
糸を作り、染め、紡ぎ、
織っていたのです。
石原:ご著書で「作家にはなれるけど、アルチザンにはなれない」と
お書きになっておられます。
最初は職人的に仕事をなされてたのですか?
それとも作家的に?
木内:そのような意識はないのですよ。
ただ手仕事が好きで。
でもやってるうちに、
旭川のために、北海道のために、
この仕事を広げられないか、という話になっていって。
私はそのために機織を習ったのではない。
ただ自分が好きで、
楽しく織りたいのだから、
そんなことは嫌だと3年くらいは抵抗しました。
というのは、
緬羊の毛でと言われたからです。
緬羊なんてこれまで触ったことも、
紡いだこともなかったのです。
東京では絹とか木綿の糸で織っていたのですから。
いくら「北海道の緬羊の毛」と言われても、
やれませんといい続けていたのです。
それでも道立工業試験場はなぜかあきらめないんです。
なんだかんだと声をお掛けいただいたのです。
石原:ずっと目にはかけられていらっしゃったのですね。
木内:「何月ころには緬羊の毛を刈ります。
とてもいい季節ですよ。見に行きませんか」とか
「緬羊の歴史の勉強は楽しいですよ」とかいわれましてね。
札幌の月寒(ツキサム)の種羊場や
滝川にあった畜産試験場にも行きました。
石原:はあ。
木内:盛岡にも工業試験場がありまして、
あちらでは明治後期に緬羊の毛を
イギリスから買い入れて、
ホームスパンの殖産事業を始めました。
それが成功して全国的な有名ブランドになって、
デパートの特選売り場に並ぶようになったのです。
北海道では、
すでに安政年間に松前藩が緬羊を取り入れて
事業をはじめて、結構成功したのに、
そのうちみんなが面倒くさがって、
戦後、途切れてしまったそうです。
北海道の緬羊の織物の歴史は古いのに、
誰もやる人がいなくなっているのが、
同じ試験場としては何とも無念だったらしいですよ。
だから、
なかなかあきらめない。
それで私に目をつけた、ということらしいのです。
そのことは後でわかったのですが。
石原:なるほど。
木内:私が熱中型だということは
わかっていたんじゃないですか?(笑)
それで「盛岡に行ってみませんか?」と誘われて。
私は「行ってみたいですね。」といって連れて行っていただいたのです。
なかなか見事なものでした。
でもその時は自分がやろうという気持ちにまでは
なれませんでした。帰ってきてからしばらくして、
今度は「歴史の面白い月寒種羊場をのぞいてみませんか?
電話しときますから」とまたお誘いがあったのです。
それでひょっと行ったのです。
これが最後なのです。
それでその・・・
つまりからめとられてしまったのです。(笑)
石原:搦め取られた(笑)。
>>次回は、織元が綿羊に「からめとられた」運命的な出来事のお話です。
お楽しみに。
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2006 spring
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木内綾と優佳良織略歴
昭和37年「優佳良織工房」発足
昭和43年-開道百年記念式典にご来道の昭和天皇・皇后両陛下に献上
昭和45年優佳良織民芸館 開館
昭和48年「日本の美術展」招待出品(パリ市)
昭和51年ハンガリー国際織物ビエンナーレ招待出品/「日本工芸展」招待出品(スペイン・バルセロナ市)
昭和52年日本民芸公募展、最優秀賞/「日本伝統・現代工芸展」招待出品(ギリシャ・アテネ市)
昭和53年国際織物ビエンナーレ、金賞
昭和55年優佳良織工芸館 開館
昭和57年「優佳良織・木内綾展」(東京・大阪・九州)読売新聞社主催
昭和58年ニュージーランド・国立オークランド博物館主催「木内綾展」/奈良薬師寺に「旙」四流奉納
昭和61年国際染織美術館 開館
昭和62年日本現代工芸美術展招待出品、内閣総理大臣賞/北海道文化賞
平成元年通産省ふるさと再発見、通産大臣賞
平成3年雪の美術館 開館
平成7年文化庁長官賞
平成10年北海道功労賞
平成12年「優佳良織/木内綾作品展」朝日新聞社主催(東京・神戸・名古屋)
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