第5回 好きなことはいっぱいあります。
    洋服はファースト プライオリティではないんですね。」


石原:今「ファッションは何番目かの好きなもの」とおっしゃいましたが、
その間にどんなものがおありですか?

栗野:散歩したりとか、映画を観たりとか、美術館に行ったりとか、
好きなことはいっぱいあります。
洋服はファースト プライオリティではないんですね。
ですが、自分が得たあらゆる知識や
クオリティをアウトプットする場としては洋服屋なんで、
結果的に自分の中の良いものは、全部洋服に出してしまっていますね。
僕は洋服の世界につくしてますよ。(笑)

石原:そうですね。

栗野:僕が鈴屋に入ったのは、たまたま学生の時のガールフレンドが
ファッション業界人だったりして、
洋服業界のことは良く知ってたんで…
それでは洋服だなぁと思って入ったんですよ。
鈴屋を辞める時は洋服業界をやめようと思っていました。
鈴屋をやめたあとのことですが…。
吉祥寺にミウラ屋という輸入食品の店があったんです。
そこで働こうか、
公園の管理人になろうと思ったんです。(笑)

石原:食品屋?

栗野:何故かというと、食料品って可愛いですよね。

石原:可愛いですか?

栗野:パッケージが。それで楽しいし、人の役に立つし、
いいなぁ〜と思って…。

石原:公園の管理人になりたいと思われたとはどういうことですか?

栗野:それはですねぇ、
僕が鈴屋やめてぶらぶらしている時…。
公園に行くのが好きだったし、気持ちいいし。
そして誰も働いていないじゃないですか。
人がのんびりするために、陰で黒子のように働いているのもいいなぁ、
なんて思ったんですよ。
でもそんなこと言っているうちに、
貯金も底をついてきて…。
それでアルバイトを始めたんです。
紹介で入ったところが「ビームス」だったんですよ。
で、面白くなってきて、結局また洋服屋ですよ。
そこからず〜っと。

石原:ということは洋服屋がお好きですし、
ご自分でも合ってらっしゃるのでしょう?

栗野:もちろん合ってますねぇ。
最初の職業選択のときは、
洋服屋はいくつかの選択肢の1つだったんですが、
ビームスに入ったのは自分が洋服を良く知っていたからです。
UAの時は、もう洋服屋として生きていこうという意思が明確で、
自覚的だったと言えます。

石原:なるほど。


栗野:UAは、当初から僕も役員だったので当然ですが、
自分のもっている知識とありとあらゆるノウハウを出し、
自分の全存在を賭けてやろうと思い、
その後は本当に主体的にかかわってきました。

石原:UAは「世界一の専門店をめざす」と
最近のリーフレットに書かれているのを拝見しました。
この一言は本当にすごい言葉だと思っております。
ところで、「世界一」を山の10合目だとすると、
UAの現状はどの辺りだと思っておられますか?

栗野:いや〜、まだ5合目ぐらいじゃないですか。

石原:まだそうですか?
それでは現在トップと思われているのは、
具体的にはどういうところですか?

栗野:やっぱり「エルメス」とか、
ニューヨークの「バーグドルフグッドマン」とか、
ロンドンの「ハロッズ」とかでしょう。
「ハロッズ」はファッションというより、
デパートとしてですが。

石原:頂上はそのあたりですか。

栗野:まぁ、例としてあげればですよね。
ただUAは他に比較するものがあまりないのです。
「ハロッズ」にしたって、仕入れて売っているわけだし、
オリジナルがあるといったって、
内部に生産の部門があったりしないでしょうから。
UAは今工場こそは持ってはいませんが、
あとは何でもあります。
パターンを引ける人もいるし、
素材を研究している人もいるし。
メーカー機能にきわめて近いんです。
これを「スーパーSPA」と僕らは社内では言っていますが…。
自社生産機能を持った小売業です。




>>次回はUAが力を入れる究極の目標について話が進みます。
  楽しみに!





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