第7回「そこでは「オリジナリティ」というのが
   すごく問われるわけですよ。」


石原:アントワープ王立アカデミーというのは、
ファッション学部の他にいろんな専攻があるのですか?

栗野:絵画もあるし、宝石もあるしグラフィックもあるし、
その他いろいろあります。

石原:日本でいうとどんな感じのところですか?

栗野:日本で言えば「美大」でしょうか。
あるいは「芸大」。
ファッションにおける「東大」「芸大」
という感じです。


世界中から学生は集まってきます。
ファッション学部は新入生は60人しか入れないんですよ。
それが2年生になる時には30人ぐらいになり、
3年生になるときは、
又その半分の15人くらいになっちゃうんです。
2002年は卒業生は10人くらいいましたけれど、
今まで一番少ない年は4人ですよ。

石原:ふり落とされる?

栗野:ついて行けなくなるんです。
卒業したら、一枚看板のデザイナーとして
やっていけるような教育ですから…。
そこでは「オリジナリティ」というのが
すごく問われるわけですよ。
1年生で服の基礎を学んで、
2年生でヒストリック コスチューム(服の歴史)を学びつつ、
その歴史からヒントを得た服を1つ作らなければならないのです。
それをショーに出すとともに、
自分自身で考えた服もいくつか作るのです。
3年生になると「エスニック コスチューム」と言って
民族衣装について勉強しながら、
自分で考えたコレクションを8体作らなければならないのです。

石原:はぁ。

栗野:4年生になると、
1年間かかって12体つくるんです。
要するに服の構造、歴史、地域性、最終的にオリジナリティ、
と非常に理にかなったやり方ですよね。
少人数だし。
5〜60人の新入生に対して先生も15人に1人くらいの割でつきます。
そして学生はどんどん減っていきますから、
最後は1対1のような形になりますよね。
課題がいっぱいあって…。
その課題にそった作品を提出しても、
それが誰かの作品に似ていたり、
オリジナリティがうすいと思われたら、
押し戻されてしまうんですよ。
その場合は何度でもやりなおしをさせられます。
ですからダメな人はついていけなくなるのです。
そのかわり、ついていける人は
かなりハイレベルになっていきます。

石原:なるほど。

栗野:僕は学部のスタッフと非常に仲良くなったんで
「どういう学生がいいのか?」と聞いたら
「ファッションが好きとか、ファッションが詳しいとかいう人は
 あまり欲しくない」と言うんです。
一番欲しいのは「面白い人」。中身が面白い人。
4年かかって
「何故あなたはファッションというサブジェクトで
 自己表現したいのか」
「あなたと世界を結んでいるものは
 どうしてファッションなのか、
 なぜファッションでなければいけないのか」
ということを掘り下げていくのです。
だから、結果的に
もしファッションデザイナーにならなかったとしても、
人間的な成長とか、自己発見し、
自分のアイデンティティを発見するには、
すごく良い経験をできますよね。
それほどまでに、
服というのは重要だと彼らはとらえているわけです。

石原:なるほど。

栗野:それは僕がもともと考えていたことと
全く一緒だったんで。
それで多分7年間もお声がけをいただいたんだと思います。

石原:そのカリキュラムの水準は世界最高でしょうか?

栗野:最高でしょうね。
他のところに行ったことがないのでよくわかりませんが…。
しかしそのように人間の内部まで掘り下げて、
人としての面白さを引っぱり出すこと、
テーマを深堀りすることにおいては
他にないんじゃないですか。教師陣も。
ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクが
自ら先生をやってますし、
学部長のリンダ・ロッパという人も
昔はバイヤーだったんです。
ドリス・バン・ノッテンの営業もやってたんです。
靴をつくっていた人とか、
いろんなプロフェッショナルが教師として参加しているんです。





>>ベルギーの文化がもたらす独特のデザイン感覚とは何か?
  次回をお楽しみに。





2006 spring
copyright (c) 2006 by OKUNO all right reserved



これまでの特集対談

ユナイテッドアローズ常務取締役クリエイティブディレクター
栗野宏文 ver
第1回目 >>
第2回目 >>
第3回目 >>
第4回目 >>
第5回目 >>
第6回目 >>
第7回目 >>
第8回目 >>
第9回目 >>
第10回目 >>
第11回目 >>
第12回目 >>
第13回目 >>
第14回目 >>
第15回目 >>
第16回目 >>


優佳良織 織元
木内綾 ver
第1回目 >>
第2回目 >>
第3回目 >>
第4回目 >>
第5回目 >>
第6回目 >>
第7回目 >>
第8回目 >>
第9回目 >>
第10回目 >>


北海道東海大学教授
織田憲嗣 ver
第1回目 >>
第2回目 >>
第3回目 >>
第4回目 >>
第5回目 >>
第6回目 >>
第7回目 >>
第8回目 >>
第9回目 >>
第10回目 >>


北海道東海大学大学院生
張彦芳 ver
第1回目 >>
第2回目 >>
第3回目 >>
第4回目 >>
第5回目 >>


同済大学建築設計研究院院長
丁潔民博士 ver
第1回目 >>
第2回目 >>
第3回目 >>
第4回目 >>
第5回目 >>
第6回目 >>


吉田カバン会長
吉田 滋 ver

第1回目 >>
第2回目 >>
第3回目 >>
第4回目 >>
第5回目 >>
第6回目 >>
第7回目 >>
第8回目 >>
第9回目 >>
第10回目 >>
第11回目 >>


ユナイテッドアローズ社長
重松 理 ver

第1回目 >>
第2回目 >>
第3回目 >>
第4回目 >>
第5回目 >>
第6回目 >>
第7回目 >>
第8回目 >>
第9回目 >>
第10回目 >>
第11回目 >>