第8回「まず、どこの誰にも似ていない
   ということが共通していえますよね。」


石原:実務的にも相当の方たちばかり…。

栗野:だから、机上のプランではなく、
服そのものというか、人と服とのかかわり、
服のでき方そのものというか…。

石原:入学する学生は日本でいえば
高校卒業ぐらいの年令の人だちですか?

栗野:いえ、もっと上ですね。
もちろんそれくらいで入れるのでしょうが、
どちらかというと他の学校に行ってきた子や
デッサンの学校に行ってきた子とかが、目指してやって来ます。


僕は96年から審査員をやりましたが、
その年に2年生ながら賞を取った1番優秀だったのが
ベルンハルト・ウィルヘルムなんですよ。
今彼はちゃんとしたデザイナーになっていますし。
彼の同期でその年やめちゃったのは、
ハイダー・アッカーマンといって、今非常に売れてきたデザイナーです。
そのあともアンジェロ・フィーガスとかブルーノ・ピータスとか、
ティム・ヴァン・スティンベルゲンとか
みんな僕が審査員として学生時代から見ていた子たちなんです。

石原:はぁ。

栗野:その他に僕が見たときは、
すでに卒業してたんですけど、ヴェロンク・ブランキーノとか
ウィム・ニールスとかリーヴ・ヴァン・ゴルプとか。
おかげさまでほとんどのベルギー系デザイナーと
知り合うことができました。

石原:ベルギー系のデザイナー達は、
どこか特有のにおいがありますよね。

栗野:まず、どこの誰にも似ていない
ということが共通していえますよね。
デザイン的な特徴よりは、コンセプトの強さが特徴だと言えるでしょう。
コンセプチュアルすぎるかもしれないのが、
アントワープの特徴だと僕は思います。

石原:アントワープは港町ですよね。
結構おしゃれなところですか?

栗野:ベルギーの中でブリュッセルが東京だとすると、
アントワープは京都なんです。
アンチ中央なんです。言葉も違います。
ブリュッセルはフランス語、
アントワープはフラマン語です。
1つの国の中で2つの言葉があります。

石原:ベルギーでは道路標識も2つの言葉で書いてありますよね。

栗野:西側はワロン圏でフランス語をしゃべる地域、
東側はフラマン圏といって、ベルギーなまりのオランダ語です。
ブリュッセルの人でフランス語をしゃべれない人は結構いますし、
アントワープの人でフランス語をそれほど上手でない人が結構います。
両方しゃべれるのは英語です。
大体僕の知っているほとんどのベルギー人は、
5カ国語をしゃべります。
オランダ語、フランス語、ドイツ語、英語、イタリア語。
アントワープに行って僕がすごく得たことというのは、
服や服作りということは
非常にヒューマンなことであるということと、
小さくて輝いている国(ベルギーのような)、
そういう国の面白さ。
そして言語というものの重要性ですね。

石原:言語の重要性というと?

栗野:結局、言葉がしゃべれるかどうかで
全然見えるものが違ってきますし、
ベルギーのようなエリアにいれば大体誰でも
3カ国語はしゃべれるようになるということは、
すごいことだと思うんです。

石原:ところでヨーロッパは、
ファッションやライフスタイルやその他において、群を抜くエリアですが、
どうしてそうなったんでしょうね?

栗野:やっぱり「貴族文化」でしょう。
服ってもともと実用品以外は贅沢品ですから、
貴族がいてそのカルチャーがあって、
その人達は実用性以外に着ることを楽しむ、そのように違う価値観を
どんどん作っていったのがヨーロッパでしょう。

石原:貴族の欲望の結果が文化をつくり、
デザインをつくりですが、
そのヨーロッパがまず産業革命を行いますよね。

栗野:そう、その「インダストリ・レボリューション」というものが、
結果的には貴族文化と結びついて
「美意識」のようなものがポピュラライズされていったのでしょう。
一部の特権階級の独占だった「美意識」が、
マニファクチャーからマスプロダクションによって広がり、
きれいな服とかいうものを一般の人もわかるようになったし、
教育もしたし、それがカルチャーになった、
というプロセスがありますよね。





>>「人間性が一番面白い」次回は人間性にスポットが当たります。
  お楽しみに。





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