第8回「『クリップ』はニューヨーク近代美術館の永久保存品のひとつです。」
織田:アートは作品が少ないほうが
稀少価値がでるという考えがありますよね。
例えば、焼き物作家が窯出しの時に
人の見てる前でどんどん割っていって、
希少性を高めていったりします。
だけど「デザイン」は数が多いことが
実はいいことなんですよ。
例えば「クリップ」。
クリップというのは一本の針金を
単純に曲げただけですが、
きちっと紙をとめるという機能を持っています。
形も綺麗で、コストも安くて、量産ができて、
こんな素晴らしいものはないと思うんです。
それを日本の役人に
「これ、すばらしいでしょ」と言っても、
「どこがいいんですか?」いわれるのがオチです。
でもこのクリップはニューヨーク近代美術館(MOMA)の
永久展示品として保管されているんですよ。
ホチキスもMOMAに永久展示品のひとつです。
良いデザインとは
量産性にすぐれているものなんですよ。
石原:日本の官庁は全然まだまだですか?
織田:そうですね。
仮に理解のある役人がいたとしても、
他の方々にその考えを普遍させていけるかといえば、
今の役所の組織のなかでは到底無理だと思います。
石原:日本の国の根幹部では今だデザインに全く無理解。
これからの経済をどうしていくかということでも
デザインは避けて通れない、
いや「切り札」なんでしょうがね。
織田:先進国の中で
「デザインミュージアム」を持ってない国というのは
日本ぐらいなんです。
名古屋市に一つありますが、普通のビルの中で、
その展示ルームはせいぜい僕の家のリビングルームくらいの広さです。
その展示ケースは「ガチャガチャガチャ」と
回転していくんです。
そっちの方が目立って展示物に目がいかないんですよ。
石原:ところで先生の世界中で
一番お好きな建築物を教えていただけませんか?
織田:あの、そのお答えとしては、
実は僕は自分の家が一番好きでして。
いくら有名な建築家がいい建物を作ったとしても、
両隣りの建物まで思い通りにできるということは
あり得ないですよね。
安藤さんがどんなすごい住宅を設計したとしても、
じゃあ、その両側も安藤さんのそれに
耐えられるかといえば、まず無理です。
九州の福岡に、ホテル・イルパラッツォというのがあります。
外装は赤御影で、イタリアのアルドロッシさんと
内田繁さんが一緒になって設計した
いいホテルなんですが、
その両横がしもた屋なんですね。
やはりそのものだけ良いのではダメだと思うんですよ。
街並としてとらえられていかないと・・・。
日本の住宅開発は広いエリアを大企業が買い占めて、
そこを何区画かに割って、
商品として売り出していく。
ですからそこに住む固有の
個人のレベルまでは想定できてないですよね。
石原:僕は最近上海へ何度か行ってますが、
マンションは「打ちっぱなし」で買い主に引き渡しです。
1戸当たり日本の倍以上の150m2くらいが標準の大きさですが
日本円で1300万円ほど出すと買えるんです。
それで、300万円ほど上乗せしただけで
バスルーム2つあるような内容の住宅ができます。
だから自分の好みのものを
みんな結構作っているようです。
>>次回は、織田先生に質問攻めです。好きな絵、車、音楽など。
お楽しみに。
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〔織田先生のご自宅の様子〕
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