第3回「札幌ドームは本当に傑作だと思います。」
石原:しつこいですが・・・もう一つ良い建築を挙げていただくと・・・?
丁:もう一つですか(笑)
体育分野の建築を見ると、今年ワールドカップがあって
日本と韓国にそれぞれ10のドーム競技場ができましたよね。
ドームですから天候によって天井を開閉できるように設計してありますが、
そのなかでも札幌ドームは本当に素晴らしく傑作だと思います。
石原:そのことを分かりやすくご説明いただけますか?
丁:いままでの体育建築は屋根を色々と工夫してきたと思いますが、
札幌ドームはそれだけではなく、足下、芝生を中心に考えているのです。
これはとても新しいアイデアです。
世界最高だと言っても過言ではないでしょう。
デザイン的に見ても大変美しいし。
その上なんといっても北海道という寒冷気候の場所にあることを
充分に考えてあります。
もしこの建築が北海道以外のところにあったら
全く意味のないものです。
これはそのように地域特性を考え抜いたという意味で
本当にすごい作品だと思います。
石原:そう言っていただくと北海道に住む私としてはとても嬉しいです。
丁:よい建築作品というのにはいくつかの条件があります。
建物は第1にそれぞれの時代の規範や流れを反映しているものです。
第2にその地域の環境や風俗や民族性を反映しています。
第3には、これが大変重要なことで、
その時その場所にいる人々に受け入れられるという事実です。
石原:なるほど。
丁:さらにもう一つ。建物はその時代の総合的な技術や文明に支えられた
産物であるということです。
石原:その意味でエッフェル塔は20世紀の入り口に
相応しいものであったように。
丁:エッフェル塔は建物というよりは構造物ですが、
たしかに「鉄の時代」の象徴の一つではありますね。
石原:良い建物の見方を教えていただき、
本当にありがとうございます。悪いものの指摘ではなく、
これは良いということは大変勇気のいることですし、
良いと言った限りはその人の全体重がそれにかかるわけですから、
「これは良い」と言っていただくと、その方の物の見方がすごくわかります。
丁:上海の中心のバンドの側に建っている、いま上海で1番背の高いビル、
金茂ビルのことですが、これは建築士も高い評価をするとともに、
一般の人も素晴らしいと思っています。
これは内部の設計は西欧の文化を受け入れながら、
外部から見ると東洋の独特の文化や美意識をとても繊細に表現しています。
石原:それは僕も確かに感じました。そこまでいくともう一つ。
そのまた側に建つテレビ塔はいかがなんでしょうか。
率直に言って僕にはあのデザインはわかりません。
あれは素晴らしいのですか?
丁:「東方明珠」といわれる上海テレビ塔は
設計上いままでのテレビ塔とは違う構造を持っています。
簡単に言うと従来のものは下部にはいわば箱を積み重ねたようなモノを作り、
その上部にアンテナ部分を取り付けた構造ですが、
東方明珠はそのような考え方を突破しています。
(といって下図のスケッチを描く)
[東方明珠・上海テレビ塔]SKETCHED BY DR.DIN
その発想の根底にあるのは、中国古来の詩人、
白居易先生(白楽天)が書いた美の極地として有名な一節
「大珠小珠落玉盤」にあり、それを形にしたのです。
このテレビ塔を作るときにはいくつかの案がありましたが、
最後には今の総理、朱鎔基氏が決めました。
その決定の時の考え方では、もう一つ重要な思いが込められています。
上海の改革解放と共に天からの恩恵がこの地に降り注ぐようにとの思いです。
石原:その意味でこのテレビ塔「東方明珠」は
中国の現代建築の発起点と言えるものでしょうか?
私にはいまだにどうもその形に馴染めない何かを感じますが。
でももう一度そのような視点でしっかり見させていただきます。
ここで質問を次にすすめさせていただきます。
この設計院はデザインスタッフだけでも数百人の方がいらっしゃるのを、
先ほど事前に見学させていただきました。
全体としてはどのようなことをなさっているのでしょうか?
丁:私どもの設計院は土木設計から建築設計までやっております。
ビルディングや住宅等の建物の設計、橋梁や土木等のデザイン、
都市開発の設計、環境処理開発などの設計の4つが主なものです。
例えば有名なところで言うと、最近では長江に架ける橋を作っています。
この橋は2本のサスペンディング(支柱)で支えられる構造で
そのスパンは1000メートルもある巨大なものです。
石原:橋の全長はいくらありますか?
丁:7kmです。橋梁の一番高いところでは水面から60m位あります。
自分で言うのもなんですが、私ども同斉大学の橋作りは特に有名なんですよ
>>次回は、中国人の美意識にすこしだけ迫ります。
お楽しみに。(次回4月24日予定) |
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建築設計研究院と丁院長 同済大学建築設計研究所は建築、土木、都市設計等の各セクションに80〜100人の研究員を有し、数百人規模の巨大な組織です。国家の巨大プロジェクトの設計に中心的役割を果たしています。その研究院の院長、丁潔民氏は1994年、若干37才で院長になり、工学博士、教授、博士生導師の肩書きを持っておられます。なお、現在の中国の学問、実業、行政などの各部門の責任者は、その多くが30才台後半から40才台の知識とエネルギーが溢れる世代が中心となっているそうです。
同済大学 1907年ドイツ人によって創設された「同済徳文医学院」という医学院がその前身。「同済」とは心を合わせて助け合うという意味ですが、日本ではなぜかあまり知られていません。しかし中国では清華大学と並び称される国立の名門総合大学です。キャンパスの中心は上海市の北部郊外の四平路沿いにありますが、総面積は実に141.8ヘクタールもあります。広大な敷地内には緑が多く、その中には一般道路が走り、住居や商店もあり、巨大な学園都市のような感じです。理学、医学、工学、文学、法学、、経済学の全分野に渡り、理学院、建築と都市計画院、電子とメディア工程学院など十数学院をはじめ、3つの付属病院、50学科、大学院80研究科を擁しています。それぞれの分野は国家建設の重要な役割を持ち、研究センターとなっています。 建築学部と医学部が特に有名ですが、殊に建築学部は中国では清華大学の建築学部と双璧をなす存在です。学院総数37,000人、教授630人、助教授1,300人のほか、外国人を含む多数のスタッフが集まり活気に満ちています。
インタビュー経緯 現在の中国において、建築設計の中心的存在のお一人、丁博士に単独インタビューが可能になったのは(株)クローバーシステム、社長で旭川日中友好協会のメンバーである栗田和成氏、札幌在住の高翔氏のネットワークによるものです。また、現地上海では通訳兼案内を勤めていただいた同大の厳万翔院長助理に万全の協力体制をとっていただきました。皆様に心より感謝とお礼を申し上げます。
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