第3回「私は、全く自信がなかったのです。」
木内:ギリシャの時は
「ハマナス」という作品を持って行ったのです。
私自身は物笑いにならないか、
と思うくらい自信がなかったのですが、
ともかくそれだけを持って行ったのです。
ところが、それがアテネの議会で決議されたのです。
「この作品を国立美術館に収蔵、永久保存作品にしよう」と。
ギリシアの招待の条件は、新たな創作、
未発表のものでなければならないというもので、
その時一緒に招待されたのは8人、
織物は私一人でした。1分野、1作家です。
石原:全くの未発表ですか。
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木内:ええ。
そこで「ハマナス」をテーマに織ろうと。
ハマナスというのは
制作に難しい花でしてね。
やっては捨て、やっては捨てして
10年くらい・・・
中止しては投げ出していた作品だったのです。
それをなんとかものにしよう、
これを持って行きたいと。
もう、出発ギリギリまでかかって、
それでも自信がないのですよね。
物笑いの種にならないかな?
というそんな感じでした。
会場はアテネからはるか離れた
イオニア海にある小島、
コルフ島で開かれたのですが、
その会場に作品を飾っても、、
自分では、良いのかな、悪いのかな、
という感じでした。
けれども、結果は凄い人の列で。
そこで初めて評価されるんですから恐ろしいことでしょうね。織物の創作というのはえらいことなのですよ。
私は、全く自信がなかったのです。
ところがそんな中、幾らくらいならお譲りいただけるのかと、
金額を提示してきた方がいらして。
100万円でどうかと。
私は内心7、8万くらいのものだろうなという感じだったのですよ。
今なら何十万円で売りますよ
と言うかもしれませんけれど。
でも、昭和50年代には
5万円でもびっくりして、
日本では誰も買い手がつかないような時代です。ですから返事できないのですよ。
価値観に差がありすぎて。
石原:5万円でも大変ですか。そのころは。
木内:ギリシアでびっくりして、
そんなにいいものかなと思ったり。
信じ切れない思いで帰って来たのですが、
まんざらでもないのかと、
そこでちょっと自信がついたのですね。
ギリシアから帰ると、留守中にハンガリーから招待状がきていました。
ローマ時代の織物の産地、
サワリアの美術館を会場とする
国際織物ビエンナーレに招待作家として招かれたのです。
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〔ハマナス〕
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招待作家は、何か自分の作品を一点持っていきます。
私たちは名前だけですが
ビエンナーレの外国人審査員ということになっていました。
石原:どれほどの人が招待されるのですか。
木内:60カ国から一人ずつ招待です。
優佳良織工芸館館長の木内和博も
招待作家としてメンバーには入りました。
そして、一般のコンクールとは別に、
招待作家だけの作品展示会場があるのです。
そこで、ハンガリーの人達はこの「ハマナス」という作品を
どう評価するだろうと確かめてみたい気持ちになりました。
ギリシアでの高い評価がまだ信じられなくて。
石原:それはギリシアのすぐ後ですね?
木内:そうです。
よその国ではどういう反応があるのかを
見てみたいという感じがあって、
文様の一部の形を変えて出品したのです。
招待作家の作品は発表済みの作品でもかまわないということなので。
石原:これはいい機会だと。
木内:私達には伝わっていなかったのですが、
招待作家にも実は審査があったのです。
ビエンナーレのコンテストには世界から何千人もの応募がある。
その中から100人くらいが賞をいただけるのですが、
その審査には私達は関係しない。
ところが、世界各国から来た審査員、
つまり招待作家の作品について
また別の審査があるというのです。
>>さて次回は、実は審査の対象になっていた「ハマナス」の
ハンガリーでの評価は…。お楽しみに。
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2006 spring
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木内綾と優佳良織略歴
昭和37年「優佳良織工房」発足
昭和43年-開道百年記念式典にご来道の昭和天皇・皇后両陛下に献上
昭和45年優佳良織民芸館 開館
昭和48年「日本の美術展」招待出品(パリ市)
昭和51年ハンガリー国際織物ビエンナーレ招待出品/「日本工芸展」招待出品(スペイン・バルセロナ市)
昭和52年日本民芸公募展、最優秀賞/「日本伝統・現代工芸展」招待出品(ギリシャ・アテネ市)
昭和53年国際織物ビエンナーレ、金賞
昭和55年優佳良織工芸館 開館
昭和57年「優佳良織・木内綾展」(東京・大阪・九州)読売新聞社主催
昭和58年ニュージーランド・国立オークランド博物館主催「木内綾展」/奈良薬師寺に「旙」四流奉納
昭和61年国際染織美術館 開館
昭和62年日本現代工芸美術展招待出品、内閣総理大臣賞/北海道文化賞
平成元年通産省ふるさと再発見、通産大臣賞
平成3年雪の美術館 開館
平成7年文化庁長官賞
平成10年北海道功労賞
平成12年「優佳良織/木内綾作品展」朝日新聞社主催(東京・神戸・名古屋)
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