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第6回「娘を病院に運ぶのに100円のお金もなかったのです。」

石原:今までこれだけのコレクションですから
いろんな大変な事ございましたでしょう。
そのご苦労話しなどをお聞かせいただければ?

織田:いろいろありましたねえ・・・。


(ここで暫し過去を振り返る表情の後)前にお話したように
大阪の高島屋でグラフィックデザイナーをやっていた時代、
その頃給料から天引きという形で椅子を買うんですね。
ある時のボーナスが30数万円の支給だったんですが、
持って帰って、家内がボーナス袋を開けてみたら
2万円しか入ってない・・・。
それを当てにしていた家内がおこりましてね〜。
大げんかになりました。

石原:それはそうでしょう。
大変だったでしょうね。

織田:それからね・・・。
ある時、椅子の注文をしてお金を振り込んだその日、
家に帰ったら娘が熱をだしていましてねえ〜。
救急車を呼ぶのに100円のお金もなかったのです。
家内も本当に怒りましたし、
僕もこの時ばかりは自分のやってきたことに後悔して、
つくづく椅子はもう止めようと思いました。

石原:身につまされますねえ〜。

織田:デザイン事務所の家賃を4ヶ月も滞納しちゃって、
「出てってくれ」と言われた事もありました。
また、アシスタントの給料払えなくて、
泣く泣く持ってた椅子をいくつか売却して
お金をつくったり・・・。
ともかく苦労の原因は全部椅子絡みですね。

石原:その椅子の売却は悲しいかったでしょうね。

織田:ええ、でも同じもので2脚以上あるものを売却したりですね。
使っていなかったので買った時の値段で
なんとか買ってくれと粘ったり。
本当は僕の理想としては同じ椅子を3脚欲しいんです。
どうしてかというと、一脚は展示用、
もう一脚は実際に座っていただく。
あとの一脚は分解して中の構造を見るために。
ですから、少し余裕があった時には2脚、3脚と買っていたんです。
今はもう重複しているものはないですけれども。

石原:その当時、どういうお気持ちで
椅子のコレクションしはじめたのですか・・・?

織田:もう・・・ひたすら「残しておかなければない」という
義務感ですね。

石原:ほお。一青年としては随分と重い義務感を
お持ちになられましたね。

織田:思い出せば義務感と言うのか、
無鉄砲と言うのか。
これは笑い話みたいなものですが、
25歳で結婚し、27才の時です。
生まれたばかりの娘を背中におんぶして、
大阪上本町にある近鉄の本社に交渉に行ったのです。
「椅子のミュージアムを作りたいので、
あの無人駅の横にある変電所の建物を売ってくれ」とね。
それはコンクリートで塗り固められた、
それでもところどころ下地のレンガが見えるような廃屋ですが、
なかなかいい建物でした。
もっともお金の当てなど何もなかったのですが。
これは前々から目をつけておりましてね。
柵があって中に入れないので表から寸法をはかったり、
近くの山の上から500ミリの望遠で写真を撮って、
計算で寸法を割り出したり。
そして描いた建物図面に、
この場所にはこの椅子を展示するとか勝手に描いて。
…ともかく夢中でした。

石原:そういう時って人生の中でも本当に楽しい時ですよね。
夜寝ていても頭の中はぐるぐる回り、
起きて、描いたり消したり。
ところでその売買はどうなったのですか???

織田:いや、「10年経っても気が変わらなければその時また来てくれ」と
応対に出た課長にやんわりと断られました。

石原:夢中はいいですよね。

>>次回は、織田先生の将来の夢とデザインとアートの違いについて。
  お楽しみに。



〔椅子の4方向写真〕

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