第2回「歴史はトーネットの曲木椅子No.14から始まった。」
石原:ところで、それらの数々の椅子はどういうジャンルのものですか?
織田:現在約1100脚ありますが。そのうちの半分が北欧のものです。
中でもデンマークのものが500脚ほどで一番多く、
それ以外にフィンランド、スウェーデンなどのものが少しと
イタリアのものが200〜300脚程。あとはその他もろもろです。
時代的にいえば1850年代以降です。
つまりそれは「トーネットの曲木の椅子」以降です。
トーネットが作った「No.14」という作品によって
一般大衆が椅子というものを生活の中に用いることができるようになり、
「家具デザイナー」という職業が確立しました。
僕のコレクションはその辺りからのものです。
僕はそれ以前の皇帝用などの権威的な椅子というものには
あまり興味がありません。
石原:私は先生のご関心はもっぱら北欧中心と思っていたのですが、
イタリアのもそんなに数多くとは認識不足で、
ちょっと意外な感じがしますが?
織田:イタリアは魅力がありますよ。
やはりデザイン王国ですから・・・。
あのイタリア独自の色気にはまいりますよね。
なんとも言えないファッショナブルな魅力に溢れていますよね。
石原:なるほど、色気と言えば分りやすい。
「色気」は北欧には感じませんね。
織田:「真面目一辺倒」です。
そしてそれがドイツにいくと「質実剛健」になりますしね。
石原:椅子の大きな潮流というとどういうことでしょうか。
織田:椅子のデザインのルーツということで申し上げますと、
まず中国のチャイニーズチェアというのがあって、
それからアメリカのシェーカー、
イギリスのウィンザーチェア、
それと先程申し上げたトーネットですね。
これらが近代椅子デザインの4大潮流ですね。
石原:トーネットとはそれほどすごい人ですか。
それとチャイニーズチェアが近代椅子の潮流の1つとは驚きです。
織田:ええ、チャイニーズの場合は
16〜17世紀「明」の時代に限定されますが。
またウィンザーは1700年代、シェーカーは1800年代です。
ですからそれほど昔ではないんですよ。
近代デザインのルーツというのは。
石原:それまでの「椅子」というのは庶民レベルから言うと、
どういうことだったんでしょうか?
織田:それ以前では、「農民家具」という言われ方をしてまして、
身近な森から切り出してきた木で手作りしたり、
あるいはその街にいる大工さんに作ってもらったりですね。
要するにオーダーメイドです。
それをトーネットは「曲げ木」という技術を使って
「レディメイド」にしたわけです。
あらかじめこれだけのマーケットがあると想定して
作っていくような形です。
それはトーネットが初めてですか?
石原:詳しく言えばもう少し遡るんですが・・・。
北イタリアのジェノバに近い「キアヴァリの椅子」とかが
あるんですけれども。
あの細い脚の椅子ですね。
織田:そうそう、この椅子です。(と直ぐ側の椅子を指し示す)
これは1800年代の初期にはもう
年間数千脚単位で量産されていました。
石原:シェーカーの場合はもともと自分で作って、
自分で使うという感じですよね。
チャイニーズには量産的なものもあったんですか?
織田:チャイニーズはやはり主として身分の高い人なんかが使っていて、
一般大衆は竹を加工して作ったようなもので粗末なものでしたね。
石原:ウィンザーもそうですか?
織田:「ウィンザー」はウィンザー地方の木挽き職人が作る
一般庶民用のものです。
ウインザーの特徴といえば、パーツによって材木が違うということです。
「曲げ」を作るところはアッシュ材(タモ)を使ったりなどと。
だから木の色が各部違うんですね。
そのために塗装をして色合わせしているんです。統一感がでるように。
石原:だからああいう色なのだ。
>>次回は、「トーネットのNo.14」の話から、椅子以外の
コレクションについてのお話も。お楽しみに。
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【1800年代初期】
キアヴァリ チェア
この椅子のルーツはフランスの椅子、これが18世紀イタリアに渡り、その後ジオ・ポンティのスーパーレッジーラを生む。
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