第5回 小菅正夫/旭山動物園園長
インタビュアー/石原嘉孝/オクノ社長
僕の子供の頃、お袋が生姜と醤油で
煮てくれたクジラの肉やベーコンは、
美味しくて忘れられない味ですよ。
石原:最近の「クジラ問題」についてはどう思われますか?
小菅:いやぁ、全く分らないですねぇ。
クジラにだけ、あのように感情移入をしていますよね。
彼らは数十年前まではクジラから油を取って、その他を捨ててました。
それが突然「クジラは知的な動物である」と言い始めるのですから。
何をもって知的な動物だというのか、僕は理解に苦しむのだけれど…。
ある研究者によるとクジラの思考力、判断力などは牛と同じくらいだそうです。
牛を大量に食べ、輸出しているアメリカやオーストラリアの社会が、突然
「クジラは知的な生き物である」などと言い出しても、
その根拠は訳のわからないものですよ。
うがった見方かも知れませんが、
何か背景にあるんじゃないかと考えたくなります。
僕は、クジラは戦後の日本人を飢えから助けてくれた
本当にありがたい存在だと思います。
子供の頃、お袋が生姜と醤油で煮てくれたクジラの肉やベーコンは、
美味しくて忘れられない味ですよ。
私達はそれで助かってきました。
安くて良質のタンパク質なんです。
それを日本から取り上げよ、
という判断が働いているのではと勘ぐりたくなります。
アメリカの農業政策をみると、自国利益の追求はスゴいですよね。
日本は狭い国土だ、牛を育てるといってもたかが知れている。
クジラさえ取り上げれば、
日本は永久にアメリカからの牛肉を輸入し続けるしかない国にできる、
といった意志を、強く感じざるを得ませんよ。
石原:アングロサクソンはかつて、中国人を阿片漬けにした人たちです。
インドから綿を買う支払代金のためにアヘンもインドで作らせて、
それを中国に売り付けるという残虐非道の「三角貿易」をへっちゃらで
やった人達ですからね。
そういうDNAはガッチリ持っているでしょうね。
小菅:急にクジラ愛護主義になって、しかも、あれだけ過激に、
他国の船に無理矢理乗り込むような犯罪行為を
オーストラリアが絶賛するというのを見ると、
どうかしていると考えざるを得ませんよ。
その根底に何があるのですかね…。
これからの世界の食糧事情という視点で考えると、
クジラをこのまま保護し、増やし続ける事が本当に正しいことなのか。
海洋生物学者達の多くは逆に危惧しています。
石原:一頭のクジラが食べるオキアミや魚類の量は莫大ですからね。
小菅:そもそも「エコ」論を展開する欧米人達の考え方の多くは、
一部の飢えることのない人達のものであって、
現実に貧しく飢えで死んでいく人達のことは視野に入っていませんよね。
地球上の土地が限られたものであると同様に、
海洋もまた限られているのです。
チンパンジーを自動販売機で販売しているわけではありません。
園内、「樹木も動物」園。
あれにはビックリしましたねぇ〜。
いざと言う時には厳然と差をつけてしまう。
石原:私はアングロサクソン系等の人達は根底で、
先程おっしゃられた生き物観と同様に、
自分達白人種以外の者には満足なものを与えるべきでない、
と考えていると思っています。
小菅:私はある時までは、そんなことはないと思っていました。
でもそのことについて強烈な体験を持っています。
学会でシンシナティに行ったときのことです。
世界中から様々な人種の人達が集まって、
一つテーブルで「野生動物をどうやって保全していくか」ということを
何日間か話し合ったのです。
会議の最終日の夜、もう一人の日本人と「今日は贅沢しよう」って、
ホテル最上階のラウンジに食事に行きました。
たまたま僕らが一番乗りでした。
「こちらへ」とウエイターに案内されました。
しばらくして、先程まで同じテーブルで議論をしてきたデンマーク人と
イギリス人がやって来たんで、
僕らのテーブルに呼ぼうと手招きしたんです。
でも彼等は僕らに手をふって、そのまま奥の方へ行ってしまったのです。
30分ほど過ぎてハッと気付いたら、僕等の廻りには黒人ばかりです。
そして奥の方には白人しかいません。
しかも凄いのは、料理を運んで来るトレイから食器類まで、
こちらと奧の彼ら用とは全部違うのです。
彼らは、その違いを知っていて何とも思わないばかりか、
それが当然と思っているんですよ。
僕らが「何だアイツら」と思っていることも意識しないですね。
そのように、当たり前のように人種差別が行われていることを、
あのシンシナティの世界大会で体験しました。
あれにはビックリしましたねぇ〜。
いざと言う時には厳然と差をつけてしまう。
石原:それはいつ頃のことですか?
小菅:10年程前のことです。それ以外の時はアメリカ人はとても親切です。
空港で迷ったらガイドしてくれますし、
忘れ物をしたら親身になって探してくれました。
その彼らが、レストランで、
我々がそのように差別されているのを見ても何とも思わないんですね。
次の日に会ってもツラっとしてました。
「どうして君たちは向こうに行ったの」と聴こうと思ったのだけど
、
聴けばケンカになるから止めましたけどね。
僕はそう思いたくないと思っていたけれど、
あの一件は今でも頭から離れないですよ。
西部のオレゴン州の動物園では全くそんな差別はなかったですが、
東部では当たり前のようでしたねぇ…。
オーストラリアには、独りで野生動物を見に行ったことがあります。
その時も高齢のそこの園長に私は直接会うことを拒否されましたね。
「ジャップ!!」と大きな声でののしるような声が奥の方からきこえて来ました。まぁ、オーストラリアの場合は、
第二次大戦の時の何かがあるかも知れませんけどねぇ…。
その<生きていることの美しさ>というものを、
何とか見ていただけるようにやろうと、
石原:日本人は昔から「山川草木悉皆成仏」、
どんなものにも生命があり神が宿っているという感覚や
思考が当たり前のものでした。
小菅:草花の命だって大切にしなければならないよとか、
秋の虫の音色を楽しみながら、その短い命を惜しむとかですよね。
動物にも、「一所懸命生きているのよ」というように、
〈生きていることの美しさ〉を感じてきたのが日本人だと思います。
旭山動物園では、その〈生き物の本来の存在の美しさ〉を、
何とか見ていただけるようにやろうとしてきました。
それに今、皆さんが共感してくれているのだと思います。
石原:アジアの方々の反応はいかがですか?
小菅:アジアの皆さんには共感していただいているようです。
白人系でももちろん、
わざわざウチの動物園に来てくれるような方は
共感していただいていると思います。
日本人と同じ様な感性をお持ちの方々もたくさんいらっしゃいます。
石原:あの重たい「人間中心主義の文明」を抜け出した人々でしょうか
。すこし“変わり者”と思われているかも知れませんね。
小菅:「ヒューマニズムの世界」から脱却しなければなりませんからね。
オレはタイガー、トラ狂ちだ〜!
「五リラ」入口
そこでわかりました。その関東の動物園は、
全部それらの動物園のツギハギなんですよ。
石原:日本中の他の動物園の現状はいかがですか。
上野動物園はヨーロッパの動物園の延長にあると私は認識しておりますが…。
小菅:今はアメリカの影響をみんな強く受けていて、
〈生態的展示〉が流行っています。
例えば、「アフリカの自然」のような環境を作って、
その中に動物がいる、という作り方です。
上野動物園も『ゴリラとトラの森』を作って、
一時それをやり始めました。
大阪の天王寺はサバンナを作っています。
各地の動物園はそのように「欧米型」に変えていっています。
そこでのテーマは「動物の展示」ではなく、動物のいる
「素晴らしい環境を展示」し「環境教育の場」にしようとしているのです。
環境が破壊されつつある時代だから、
動物ではなく環境の重要性を訴えた方が良い、
という理論です。
そのお手本の一つがシンシナティの動物園なのです。
その〈生態的展示〉には多額の初期投資の上に、
維持コストも相当なものです。
だいぶ前、関東のある動物園が<生態的展示>を日本で初めてやったので、
僕も行きました。
「ほぉ、こんな新しい方法を」と思いながら見ました。
その後、シンシナティに行った際、
ついでにいくつかのアメリカ各地の動物園を見たのですが、
そこでわかりました。
その関東の動物園は、全部それらの動物園のツギハギなんですよ。
確かに、入園者は感心して見ていたようです。
でも、私はその根本の考え方は日本人向きじゃない、と感じました。
自分達はそんなモノまねではなく、
絶対オリジナルなものでなければならない、とつくづく思いました。
まぁ、それをやろうとしても,とてもそんな金もありませんでしたが…。
本当にお金がかかるんです。一つ作るのに30億円位も。
しかも、旭川は寒冷積雪の地です。
「オランウータンのいるカリマンタン島のジャングル」は絶対に無理です。
もしその方向での動物園しかないとすれば、
僕らはもう動物園作りをを諦めるしかなかったでしょう。
でも、日本の動物園の大半はそういう方向に行っています。
石原:なるほど。
小菅:今、ウチがやっているのは、それと違って[行動展示]をやっています。[行動展示]というのは,環境ではなく動物そのものに注目する、という方法です。自然環境を作ろうとしても、
我々はとてもそんな巨額のお金をかけることはできません。
だから、それは説明書きやイラストとかを描いて、
解ってもらって、ひたすら「動物のすごさ」を見せていこうと
特化したわけです。
>>木漏れ陽の中ではヒョウの柄は見えません。
シマウマの白と黒の柄は・・・・
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2008 summer |
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