第3回 西川将人/旭川市長
   インタビュアー/石原嘉孝/オクノ社長


北海道や旭川には、素晴らしい美しい自然があります。
これを大事にしながら生かさない手はありません。


石原:「日本、世界の現在と未来」について
でどのように考えておられますか?

西川:日本は今のところまだ経済大国の地位にありますが、
これからはかなりかげりを見せていくでしょう。
一方、中国、インド、ロシアをはじめ、中東産油国、
EUも今以上に経済力をつけていくことは間違いありません。
だから日本は、経済的には相対的に貧困化していくことになるでしょう。
いままでのように、良い車に乗り、良いバッグを持ち、
おいしいものを食べるという物質面だけの贅沢な生活を求めるのにも限界がきます。
これからは、我々日本人は、ただ経済力だけの大国ではなく、
「心の豊かさ」を大事にし、人間として真の幸福な状態を作り、
外に示していける国を目指すべきです。

石原:北海道、私たちの旭川はどうしていけば良いのでしょう。

西川:日本の経済力のかげりは必然です。
一方、新興国地域などの経済発展がもたらす地球環境の破壊はすでに深刻ですが、まだまだとどまるところを知らずといった状況です。
だからこそ、私たち日本は、その先を見ていかざるを得ないのではないでしょうか 。
食料の安全で安定した供給、緑あふれる自然と清澄な空気、
ややゆったりと流れる時間など、これからの世界に本当に必要なものはそういうものだと思います。
もちろん、今走り始めた諸国もまた、その産業の発展が自然をいかに破壊し、
自分達自身をもいかに蝕んでしまうか、そんなに遠くない先に思い知らされるに違いありません。
そう考えると、日本の中における北海道や旭川市の優位性は明確になってきます。
私たちの北海道や旭川には、素晴らしい、美しい自然があります。
これを大事にしながら生かさない手はありません。


他所からの借り物では何も生まれませんよ。

石原:ですが、人々が豊かであるには、ベースになる経済力は不可欠です。
自然保護、生活、都市環境、経済力の相互関連をきちっとしておかなければならないことだと思いますが。

西川:日本はいま、世界第2の経済力の国といわれておりますが、
多分十数年後には5〜6番目くらいになってしまうのではないかと私は思っています。
それでもまだ豊かなグループの中にいるのですが、
しかし今のままでいったら、その辺りの経済力では、国民の中にもっと不平不満が出てくるでしょう。
問題は、その状況に日本人が慣れることができるかどうかということではないでしょうか。

石原:これから数年で中国は日本を捉え、
ハイスピードで抜き去っていくだろうなと実感します。
問題は1人当たりの生産性ということではないでしょうか。
世界は「大競争」の中にあって、第1位の地位を占めたものが「総取り」してしまうという流れです。
うかうかしていると相対的貧困から絶対的貧困の状態に陥る可能性があります。
「我々はノンビリ行こうや」と考えていると、厳しい状況になるのではないですか。

西川:日本人がただ「のんびり主義」で良いわけがありません。
世界を見据えていかなければならないでしょう。
ただ、私は旭川市長という立場で北海道や旭川地域の方向を考えた場合、
自らの地理的、自然的条件を最大限に生かすことが大事だと思っています。
私達はやはり人一倍努力を続けなければ、
この世界の動向に置いてきぼりになるのは必然です。
それにしても、それぞれの地域は自分達の特性を生かすことで初めて存在価値を高め、世界に誇る何かができるものです。
他所からの借り物では何も生まれませんよ。


問題は、「努力する方向性」にあるのではないかと思っています。

石原:現状の旭川は、全体が「内向き」志向です。
もっと日本中に、世界中に、自らの存在価値を認めさせようという強い意志、
外向きのベクトル」が必要だと思いますが…。
        
西川:もちろん私は独自性や創造性を発揮してもらえるよう市政を一所懸命に行っているところです。
私はいつも不思議に思っていることがあります。
アメリカ人は全体として、
何故あんなに豊かな生活をしているのかと言うことです。
かつて私は2年間アメリカに住んでいました。
そこで見ていたのですが、彼らの多くがプール付の家に住んでいて、
飛行機を持ち、車は複数あり、それでいて日本人ほど仕事をしていないんですよね。
資源がある、世界中からお金を持ってこれるということはあるでしょう。
でも、アメリカ人は赤ん坊がみんな1億か2億円の札束を持って生まれてくるのか、と思わざるを得ない豊かさです。
なぜなのか?日本人にはそんなことがあり得るのか。
ずっとそのことを思い続けてきました。

石原:それにつき、私はこう思ってきました。
他を支配し、自分の統治下に置こうとする「気」や考え方を大いに持っている民族・人種と、そういうものを持っていないものとの違いなのではないだろうか…と。
何故、アフリカ人は奴隷化されたのか、何故アジアは植民地にされたのか…。
その根本にあるのは資源の有無ではなく、「その気」の有無である、と。

西川:「その気」ですか。考えてみれば、
資源を持っていたのはアメリカやヨーロッパよりも、
アフリカやインドや南米や中東でしたよね。
それを奪いとり、使いたいという
「気」があったのがヨーロッパ人やアメリカ人であったということですね。

石原:宗教や文化や文明などが重層的に関係するのでしょうが、
アメリカ人の源流をなすヨーロッパ人は、常に争いをし、支配し、
支配されてきた歴史を持っています。
彼らは征服し、資源を奪い、支配することなく存立出来なかったのです。
だから、できるだけ多くの富を自分のものにするぞという「気」を持ち、
支配する技術を身に付けてきたのではないでしょうか。
資源や技術を持っていたから世界支配が可能になったのではなく、
「 その気」があったからこそ技術を持ち、
支配力をもったのだと僕は思っています。
彼らは、その収奪力をいまでも勿論捨てる気はないでしょう。
今でもまだ日本も含めた多くの国が収奪され、
支配される側にいると言えるのではないでしょうか。

西川:いまだに続いているかもしれませんね。
株価や為替相場にしても日本がちょっと良くなると
「プラザ合意」で調整されたり、銀行の自己資本比率を4%だ、
国際基準は8%だといきなり決められたりしていますね。

石原:昔、平泳ぎの古川選手が潜水泳法で勝ち続けたら、
3回以上潜り続けたらダメだとルール変更され、
スキーのジャンプで日本が強くなったら、板の長さを制限されたりですからね。

西川:確かに彼らの支配意識というものは根の深いものだと思いますね。
それらの圧力に抗して、日本やアジア人などは世界で戦わなければならないと言うのも事実でしょうね。

石原:内向きのベクトルでの努力だけではなくて、
世界に打って出ようという外向きの強いベクトルが働いていないと、
目指す「豊かな生活」というものは獲保できないのではないかと思います。

西川:日本は今、トヨタ等が世界に広く出て行き、
強い競争力で日本に富をもたらしてくれています。
炭素繊維等の新素材や環境改善技術などの優れたものを持っていますが、それだってたえず努力して、前進していかなければ、いつかはキャッチアップされてしまうでしょう。
私の言う「豊かな生活」というのは、ゆったりした時間や空間や人間関係ではありますが、当然一方ではたえず緊張し、集中し、開発していく努力は不可欠ですよね。
問題は、「努力する方向性」にあるのではないかと思っております。
ですから、私達の住むこの北海道の美しく豊かな自然環境はもっと広くPRしていくべきものだと思います。





OKUNO前にある彫刻「猫ラッパ」。「夜中無人のとき、猫が不在になる」と有名。



>>「旭山動物園」は私達日本人にしかできないものだと思っていますよ。




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