第5回 西川将人/旭川市長
インタビュアー/石原嘉孝/オクノ社長
ほんの僅かの味の違いを楽しむ能力は日本人の特性ですよね。
石原:つい先日十五年ぶりに、ニューヨークに行きました。
そこで、改めてつくづく思ったことは「ああ、日本のメシはうまいなぁ〜」ということでした。
日本ではこれだけの味を誰でも当たり前にいつでも食べています。
でもこの微妙な味を楽しみ、感じ取れるのは他にいません。
これは日本人の誇るべきところだと思っています。
西川:アメリカではそんな微妙な味よりは肉とポテトをバァーと焼いて、
それで充分毎日満足している感じですよね。
確かにほんの僅かな味の違いを楽しむ能力は、日本人の特性ですね。
石原:この「微妙」の妙を楽しみ作り出す能力は、
日本人の圧倒的能力だと思います。
これに強い自信をもっていれば、
世界に打って出るチャンスはあると思います。
西川:日本人の私達には共通してその能力がありますよね。
更に、幸いにも旭川やこの周辺には美しい自然環境もありますからね。
日本中でこれだけ雄大で美しい自然環境は他にないほどですよ。
問題はそれを、どう具体化していくかです。
旭川市は自ら一番良いところ、優位なところを見極めて、
強力にみんなで押し進めることです。
石原:ぜひ、。二十年先、三十年先を見通しながら、
少々反対意見があろうが、
市長の責任と権限で強い方向性を示して欲しいと思います。
西川:まだ二十年、三十年先を見通す自信はありませんが、
「食」の将来を考えた時の旭川の農業、
国内的にもまれなほど分厚く充実したわが市の医療態勢には強い期待と可能性を感じています。
勿論この分野だけではなく、
多くの可能性をカバーアップしたいと思っております。
石原:その可能性を見つける方法として、
「異質性・異物性」を強調したいと思います。
少なくとも今までにない何かを作り出すのは
「異質性・異物性」の中にあるのではないでしょうか。
既存、既知、「みんなと一緒」の感覚や単なるルーティンワークでは、
変革の契機は期待できないと思います。
西川:確かに、変化をもたらしてきたもの、時代を切り拓いてきたものは、
それまでの人々にとっては変な、奇異な、理解出来ないものでしたよね。
そのようなものの中から、新しい時代が始まったと言えるかもしれません。
もちろん市政運営を考えた時、市民全体が安全で、
幸せであることを第一に考えねばなりませんが、「異物性」を持った人が活躍できるような環境も必要なことだと思います。
時間はかかるけれど、見守っていかねばならないでしょうね。
石原:ローカル都市の共通したマイナス面は、「出る杭は打つ」であり、
「異物性」を持った人を認めようとしないで叩き潰そうとする力が強烈だということです。
東京ですと人口も多いので、少々変わった人も波に飲み込まれて目立ちもしません。
「変な人」も異質性人もゴチャゴチャになって前に進んでいく原動力になっていますよね。
西川:スペインといえば、ガウディやダリのような世界的な画家に代表されますが、「ともかく変わった人」がたくさん居るというイメージがあります。
「異物性」をそのように考えると、天才に化ける可能性を持っている…
ということは言えますね。
石原:市長があまり「異物性」を大事にすると、市民から
「何をやっているんだ」という反発を受けることを勿論覚悟しなければならないでしょう。
でも、市民の中にも理解する人はいますし、
市外からも、あの都市は面白いことがありそうだと、
続々応援隊を送り込んで来てくれると思います。
西川:確かに「面白く」見えると、いたたまれずついつい覗き込みたくなるのが人間ですよね。
今の旭山動物園もそうですね。
そういうものが、幾つもあれば確かに注目度は一層上がります。
異質・異物を巻き込んだ、よい意味での
「混濁性」も大事ですね。進化発展のためには
石原:誰でもお金持ちになりたい欲望とともに、
「世のため、人のために役立ちたい」という欲望がありますよね。
名誉欲でやる人もいますが、「世の為、人の為に役立った」ということは、
自分の心の中で「気持ち良さ」の感じがあるからだと思います。
西川:「他人のために役立つこと」の快感は、
人間以外の生物が持っていない、誠に人間らしい感情ですよね。
石原:私は市長の仕事の一つとして、
みんなをそのような気持ちにさせることがあるのではないかと思っています。
西川:昔、J.F.ケネディが大統領就任式で言った
「国家が自分に何をしてくれるのかではなく、
自分は国家に何が出来るのか」と訴えたアレですね。
石原:アメリカ人の心をガァーッと盛り上げて
「月面征服」までやってのけたのですから。
トップの言葉や訴えで、人々の気分が変わり、
偉大な現象も巻き起こってくる好例です。
人々の能力を引き出し、国家は「儲かり」、人々も「大満足」しますしね。
市長もぜひ、そのようにこの旭川市と市民を引っ張っていっていただきたいとお願い致します。
西川:単に、市民のエネルギーだけではなく、
市の予算を使うところにおいても、そういうことだと思いますよ。
予算以上の仕事を積み上げていくことです。
それが結果としては市民に、より多くのサービスを提供できることになるのですからね。
旭川市に何人もエネルギッシュな人がおられます。
それにつづく人が更に多く出てくれば市は発展していくのですよね。
石原:例えば野球のジャイアンツはいつでも注目され、
お金持ちで、強い選手を数多く集めることができます。
でも今、常識の固まりのようになって魅力をなくしています。
一方、ローカル球団は、思い切ったことができ、面白いこともできますよね。
旭山動物園も、上野と違って「田舎動物園」なので、
勝手が出来たとも言えます。「田舎の良さ」ですよね。
西川:確かに、そういう言い方もありますね。
小さい規模だから思い切った冒険もできたと。
小さいから何かやれば良い意味で目立ちますしね。
もし、「上野」でやってもほんの一部分が変わっただけというにしか過ぎません。相当やらないと。
石原:この自然豊かな、比較的小規模な都市に、「暴力的」とも言えるパワー、
「知的暴力」「技術的暴力」「スポーツ的暴力」等の人達を集めて、
ゴリゴリ刺激し合い、競わせれば面白いことがきっと起こるのではないのでしょうか。
西川:石原さんのいう「異物性人」の集合ですか。
そういう土壌はこの旭川には充分にあると思いますよ。
言葉の本当の意味で「革新的である」という体質を持っていると思いますよ。
石原:ただ、よく外からの流入者には保守的だと言われます。
異質な人の混入に拒絶的なのは、世界中どこでも「地方性」の特徴でしょうけれど。「変なものに慣れていない」ということです。
西川:地方都市では、同じ学校の出身者だったり、みんな顔見知りだったりします。そこに見知らぬ人が入ってくると、同じように接するわけにはいかないので、ついつい特別に見るのでしょうか。
流入側からは冷たい、排他的と感じるのでしょう。
東京やニューヨークは、多様な人、人種のるつぼですから、
「変わったもの」に慣れていて、むしろ「同じである」と奇異を感じ、
異質・異物に平常を感じている、と言えるかもしれません。
安全で便利な市民生活という課題と共に、
異質・異物を巻き込んだ「混濁性」も大事ですね。
進化発展のためには…。
石原:「混濁性」を受け入れる余地があればあるほど、
今の時代は外部からどんどん情報は入ってきますからね。
西川:インターネットもあって、その気があれば、
瞬時に外の欲しい情報や異質なモノを手に入れることができます。
石原:単に受け取るだけでなく、我々が有用な異質性・異物性を持っていると、
世界中からそれを求めにやって来ますしね。
西川:今は「情報発信側」にもすぐなることができますね。
自分が特色あればあるほど発信力が大きくなります。
他都市と同じでは、誰も注意を向けないでしょうけれど…。
いろんなところを見て来たという
経験はある方だと思っています。
石原:市長のお若い時から世界中を見て来た経験は貴重です。
「外の経験」は若い時ほど、その人の潜在力になりますからね。
西川:とりあえずいろんなところを見て来たという
経験はある方だと思っています。
石原:多様性をたくさん見て来た経験を土台にして、
若くて躍動したくてしょうがない人達をどんどんおだてて、
ご自分の手の平の上で、暴れまくってもらうことではないでしょうか。
西川:ルーティンワークは勿論、市としても大切な仕事ですが、
進歩発展ということでは「変わり種」を見つけて、頑張ってもらって、
その中から立派な新種になっていくように育てることですよね。
できるだけ私も頑張ってやってみますよ。
石原:私の好きな画家伊藤若冲は江戸中〜後期の人ですが、
その絵は今見ても凄く、世界最高峰です。彼の隣近所、
京都の街のほんの一角に、円山応挙、池大雅や曽我蕭白がいて、
顔見知りの彼らが、日本を代表し世界に誇る絵や美術を生み出しました。
類は友を呼びます。
ライバルが多い環境ほど、人は素晴らしい才能を開花させ爆進します。
ぜひ、若いエネルギーの芽をたくさん育てていただける環境づくりをお願いいたします。
西川:石原さんに何か私もおだてられているような気もします…。(笑)
いずれにしても私自身、旭川市の発展のため全身全霊を傾けますよ。
どうぞ、ご期待下さると共にご協力下さい。
石原:本日は本当にありがとうございました。
2008年3月28日 午後1時より/場所 市長応接室
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